相続をする方へ
不動産相続をされる方へ
財産の相続は人生でそう何度も経験するものではありません。そのため、「まずは何をするべきなのか」「相続税はいくらかかるのか」など不安や疑問が頭をよぎることでしょう。特に不動産は分割しにくい財産であり、相続人同士でトラブルになることも少なくないため、頭を悩ませやすいものです。
こちらでは「相続する側」つまり「相続人」の立場に立って相続対策についてわかりやすく解説していきます。
相続の承認
相続対象となる財産には、現金や不動産、有価証券といったプラスのものだけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。つまり、財産はプラスのものだけが相続されるわけではないわけです。そのようなことから相続は「親の遺した借金で、ある日突然破産!」などということのないよう、相続する人が承認した場合にのみ実行されます。相続の承認には、次の3つがあります。
1. 単純承認 プラスもマイナスも含め、すべての財産を引き継ぐことです。
2. 限定承認 プラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産を引き継ぐことです。
3. 相続放棄 すべての財産の引継ぎを拒否することです。
「限定承認」や「相続放棄」を選択する場合、相続人全員が「相続税の申告期限」までに家庭裁判所に申請しなければなりません。相続税にはいくつかの優遇制度が設けられていますが、それらの申告も期限までに行わなければ無効になります。
生前対策を行って被相続人の想いをスムーズに引き継ぎましょう
被相続人がご存命の間に相続について準備・対策することが生前対策です。
「兄弟姉妹は仲が良い」「親が死んだ後の話なんてしたくない」と考え相続についての話を先送りしたくなるのは理解できます。しかし、未来のことは誰にもわからないもので、事故や病気により突然相続が発生する可能性はあるものです。
被相続人である親が亡くなり相続が発生したことがきっかけで仲の良かった兄弟姉妹が争いを始める…こんな事態は相続人の一人としてできる限り避けたいと思われるのではないでしょうか。そしてそのようなトラブルは被相続人の望んでいたものではないはずです。
生前対策は被相続人が残してくれた財産、そして想いを相続人が引き継ぐことです。しっかりと生前対策を行い、相続を少しでもスムーズかつできる限りトラブルを避けていきましょう。
相続の生前対策について
遺産分割に関する対策
遺産相続で最も多いトラブルは分割に関することで、特に不動産については分割がしにくいため、相続人同士でトラブルとなるケースが多いです。
たとえ仲が良かった兄弟姉妹であっても、金銭が関わるとその関係にヒビが入ることは珍しくありません。不動産は相続財産の中でも価値が大きくなる傾向にあるため、満足行く形で分割が行われないと修復困難な関係になることもあります。
遺産分割をスムーズに行うための対策として最も有効なのは、被相続人である親に遺言書を書いてもらうことです。相続では遺言書に記載されている内容が優先されるため、事前に分割についてわかりやすく書かれていればトラブルになる可能性が低くなります。また、相続人同士で揉めないためにも、生前から被相続人を交えて相続について話し合いを持つことも大切です。
相続税の対策
相続人は「相続が発生したことを知った日の翌日から10か月以内」に相続税を納めなければいけません。期間は限られていますので、納税する資金はあるのか、どのように調達するのかを考えておくことが大切です。
自己資金が足りず調達が難しい場合は、被相続人や他の相続人と話し合い、生前贈与や資産の組み換えなどを検討していくこともおすすめです。
また、「小規模宅地等の特例」「相続時精算課税制度」などの特例や制度の利用は節税に役立ちます。所有している土地にアパートを建築するなどすれば財産評価額が下がるため、被相続人に提案してみるのも良いでしょう。
二次相続の対策
相続には一次相続と二次相続があります。たとえば、父親が亡くなった時に発生するのが一次相続です。続いて父親の財産を相続した母親が亡くなった場合、父親の財産が受け継いだ母親からその子どもへ引き継がれます。この財産の二度に渡る引き継ぎが二次相続です。
一次相続で母親が財産を受け継ぐ場合は配偶者控除により税額が大きく軽減されます。しかし二次相続では配偶者控除はなく、基礎控除のみが適用されます。つまり、大きな財産である場合はそれを考慮した上で相続対策しなければならないわけです。
生前贈与
被相続人から生前に財産を贈与してもらうことを生前贈与といいます。
財産が生前に贈与されれば、相続発生時に相続税を減らすことができます。贈与税についても、年に110万円以内であれば基礎控除が適用されてかかりません。この控除は贈与を受ける側それぞれに適用されます。たとえば、3人の子どもがいる場合、毎年110万円ずつ10年間贈与すれば3,300万円を無税で贈与できる形となります。ただし、相続発生を基準に3年以内の贈与には控除金額内であっても贈与税が課せられるので注意しましょう。
また、相続人側に贈与を受け取る意思がない場合、贈与とされません。親が勝手に子ども名義の口座を作って積み立てるといったケースは相続とみなされる可能性があります。
生前贈与を行う際は、被相続人としっかり話し合うことはもちろん、正しい知識で進めるようにしましょう。
遺言書
遺言書とは
遺言書は被相続人が死後にどのように保有する財産を誰にどのように分配するかを意思表示した書面です。
事前に遺言書を準備しておけば、被相続人はご自身の財産を自分の意思で思い通りに分配することができます。また、相続人も遺言書に従って相続手続きを進めることができるため、トラブルになりにくいことがメリットです。つまり、被相続人ご自身にとっても、残される家族にとっても遺言書はぜひ準備しておきたい書面となります。
遺言書がある場合の相続
遺言書の有無で相続の流れは大きく変わります。遺言書がない場合は相続人を確定させて法定相続分を相続します。また分割しにくい不動産を相続する場合は遺産分割協議を行わなければなりません。
しかし遺言書があればその内容に従って財産を分割することができます。相続人や財産の行き先がわかりやすく、不動産を相続する場合も遺産分割協議の必要がありません。そのため、相続人同士でのトラブルも発生しにくくなります。
ただし、特定の相続人だけが優遇されすぎている、見ず知らずの第三者に財産が分配されているなどのように、他の相続人の遺留分を侵害する内容である場合はトラブルになる可能性が高いです。被相続人の死後、遺言書を読んでみたらとんでもない遺産配分内容だった、といったことがあれば相続は面倒なことになります。そのようなことが発生しないためにも、生前から被相続人と風通しの良い関係を築き、相続について気軽に話せるようにしておきましょう。
不動産の相続登記に使える遺言書について
法律の条件を満たしていて、相続する不動産が特定できる記載がされている遺言書であれば、不動産の相続登記に使用できます。
法律上の条件は以下です。
- 公証役場で作成された「公正証書遺言書」
- 被相続人が全文および日付・氏名を自筆し押印し検認を受けた「自筆証書遺言書」
- 内容は明かされておらず公証役場で作成され検認を受けた「秘密証書遺言書」
上記3種類の遺言書ならば相続登記に使用できます。検認とは被相続人によって作成されたことを家庭裁判所が認めるものです。
ちなみに被相続人が作成したものであっても、メモ書き程度のものや形式を満たしていない場合は遺言書としての効力がありません。被相続人から遺言書について話す機会があったり相談されたりした場合は、上記3種類のいずれかの形で法的効力のあるものを作成するようにアドバイスしてあげましょう。
遺言書による相続登記時に必要な書類
登記原因証明情報
- 遺言書
- 被相続人の死亡時の戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本(被相続人の死亡日以後に発行されたもの)
登記原因証明情報
- 相続人の住民票
- 被相続人の住民票の除票(本籍記載のもの)
不動産の固定資産評価証明書
登記原因証明情報
- 委任状(司法書士などに依頼する場合)
※その他、遺贈を原因とする際は、印鑑証明や登記識別情報が必要となる場合もあります。
財産の把握
相続人が財産を把握することの重要性
被相続人である親が保有する財産の詳細を把握している方はほとんどいないのではないでしょうか。しかし親が事故や病気により突然入院した際、預貯金や保険について事前に知っておかないと治療費の捻出や保険金の請求は難しくなります。
さらに不幸なことに親が亡くなり相続が発生した場合、財産の調査を一から行い手間と時間をかけて目録を作成しなければなりません。これは相続人にとって大きな負担となることでしょう。
親の財産について知ることに「抵抗がある」という方は少なくありません。しかしいざという時に無用なトラブルや負担を避けるためにも、親子で話す機会を持つことは良いことです。相続人として、できる限り親の財産を把握しておきましょう。
把握しておきたい財産のリスト
相続人としてある程度把握しておきたい親の財産は主に以下のものです。
- 預貯金
- 株式や投資信託等
- 生命保険
- 自宅やそれ以外の不動産
- ローンや借入金
財産の所在だけでも把握しておこう
親と相続について話す機会があったとしても、具体的な資産総額を教えてもらうことは正直難しいところです。ですから、預貯金口座のある金融機関や利用している証券会社、不動産の場所など、財産の所在だけでも親から聞いておき、把握しておきましょう。最低限所在さえわかっていれば、相続が発生したときでも一から探し出す手間がなくなり、手続きをスムーズに進めることができます。
もちろん、「直接話すのは気乗りしない」という親もいます。そういった場合はエンディングノートなどに記入することを提案してみてください。
相続後の節税対策について
生前からある程度の対策をしておけば相続はスムーズに進みますし節税もしやすくなります。とはいえ、実際に相続が発生してからでないと実感も沸きませんしわからないことも多いものです。
実は相続発生後であっても相続税を節税することができます。相続後の節税対策について解説いたします。
配偶者控除について
被相続人の配偶者にのみ適用される控除です。「配偶者の法定相続分(財産の2分の1)」または「1億6,000万円」までは相続税が控除されます。
被相続人の財産は配偶者とともに築き上げたものであることや、配偶者の今後の生活を守るためにこの控除は存在しています。
ちなみに、配偶者が多めに相続することで、相続人全体の相続税を減らすことが可能です。ただし、二次相続により最終的な相続税が高くなるケースもあり得るため注意しましょう。
二次相続は事前の対策を
二次相続とは一次相続により遺産を相続した配偶者が亡くなり、その遺産を子どもたちが相続するケースのことです。
前述の配偶者控除は相続税を大幅に節税することができます。しかし、二次相続によって相続税が結果的に割高になることも珍しくありません。最初の相続が発生した時点で節税することも良いですが、二次相続までを見越しておくと二次相続時に苦労せずに済みます。
小規模宅地等の特例
被相続人が居住や利用していた土地・家屋の相続で最大80%まで評価額を下げられる特例です。
- 住んでいた土地:限度面積330㎡・減額割合80%
- 事業をしていた土地:限度面積400㎡・減額割合80%
- 貸していた土地:限度面積200㎡・減額割合50%
といった形で評価額が減額されます。いずれの場合も減額割合がとても高いため、適用されれば相続税を大幅に節税することが可能です。
土地の評価額を下げる要因について
相続する土地の評価額が下がれば結果的に相続税は安くなります。たとえば以下のような要因があれば、土地の評価額を下げることも可能です。
- 私道のみで公道に面してない
- 敷地内に不特定多数の人が使う私道がある
- 接面する道路の幅員が4m以下である
- 土地の形がいびつである
- 強い傾斜のある土地である
- 日当たりが良くない(日照時間が短い)
- 間口が狭い
- 鉄道の近くにあるため騒音や振動がある
- トンネルの上にある土地
- 隣接地が墓地である
- 高圧線が通っている
- 宅地化するには費用がかかる
PICK UP!
相続した不動産は放置しておくと損!?
不動産は資産として評価されるものです。そのため、使う・使わないにかかわらず、所有している人に対して税金がかかります。相続によって使用する予定のない不動産を譲り受けた場合も、固定資産税は毎年負担しなければなりません。さらに、人が手入れしていない建物はすぐに傷んでしまうので、一定の管理も必要です。
当社ではそのような空き家の管理サービスをご提供していますが、相続した財産を使用する予定がないなら、経年劣化が進む前に売却するという方法もあります。ただし、相続不動産の売却には名義変更が必要。相続人が複数いる場合、トラブルが発生するかもしれません。相続不動産に関してご不明な点がある方や、お困りの方は、不動産のプロである当社に一度ご相談ください。
家族信託
家族信託とはその特徴とメリット
家族信託は自分で財産を管理できなくなったときのために、被相続人が信頼できる家族に管理権限を託す制度で、近年注目されています。
家族信託は被相続人である「委託者」、管理を任される「受託者」、利益を受けられる「受益者」という3つの役割で行われます。一般的に委託者と受益者を被相続人とし、相続人を受託者とします。
生前贈与とは異なりますが、被相続人が生きている内から取り決められた範囲内の財産について管理処分を受託者が行えるようになるのが家族信託の特徴です。たとえば被相続人が何らかの理由で判断能力を失ってしまった場合でも、受託者は自身の判断で財産を動かすことができます。
また、遺言書の場合は一次相続までしか指定できませんが、家族信託ならば二次相続までを想定して受益者を指定可能です。相続人指定の自由度が高く、被相続人が生前のうちから財産について話し合えることは家族信託の大きなメリットといえます。
家族信託を利用する方法
家族信託は委託者となる被相続人と受託者となる相続人との間で管理する財産の範囲・管理方法・受益者について取り決めをして信託用の銀行口座を開設します。その後、委託者から受託者への名義を変更した上で不動産の信託登記も行います。
このような手続きを行えば家族信託を利用することが可能です。